2日目は主に松岡先生が翻訳した本のお話をしていただくことになりました。
また、読み手側の意見、どんな風に読まれているのかを直接知りたいという
松岡先生からのご希望だったので、聞き手を設けて、参加者の方にもお話をお聞きしつつ…という形の会になりました。
対談というか会話での進行は話が思わぬ方向に転がったり、戻ったり…ということばかりで、1日目よりさらにまとめるのが難しいのですが、
松岡先生のお話で特に印象に残っているところをピックアップしてレポートします。
松岡先生が翻訳されているものは・・・それこそ膨大な量!
その中から今回は絵本ではなくてあえて読み物。
お勧めしたいシリーズでもあるし、もっともっと読まれてほしいと思っているパディントン・シリーズとヘンリーくん・ラモーナのシリーズを中心にお話をしてほしいとお願いしました。
この2作はどちらも、子どもの読書過程でとっても大切な分岐点になる年代の子どもたち
(絵本・幼年童話以降、長編やファンタジーに行く前の段階)に特に読んでもらいたいシリーズです。
(※写真はパディントンの庭づくりをイメージして作っていただいたフラワーアレンジメントです。講座の時は松岡先生の横に置かせていただいて、講演終了後は松岡先生にお土産としてお持ち帰りいただきました)
まずは『くまのパディントン』シリーズのお話から。
(マイケル・ボンド/作 松岡享子/訳 福音館書店/刊)
パディントンは当初、5年生を念頭に置いて訳したけれど、出版当初は1年生から2年生の子も夢中になって読んだそうです。
(今は中学年から高学年から読み始める子が多いようです)
パディントンが巻き起こす大騒動の面白さにつられて、読み続けてしまう子どもが多かったのではないかと。ドタバタの面白さに反応して読んでいると、そのうち言葉の面白さ、齟齬の面白さというものを感じていけるようになる・・・という事をおっしゃっていて、これは本当にその通りだなと思います。
私は小さいときはパディントンの絵本(もう今はありませんが以前は偕成社からシリーズで出ていたのです)を読んでいて、それから自然に読み物の方に移行したのですが、確かに絵本の方はお話自体も主にドタバタの事件にスポットが当たっており、こちらもそこを楽しんでいたように思います。
でも読み物が読めるようになると、パディントンの起こす事件はもちろんですが、そうなってしまった原因(主にパディントンの思い込み)や周囲の人々の対応、いかにもイギリスらしい生活描写を楽しんでいました・・・いや、現在進行形で楽しんでいます。
パデイントンのお話でいちばん印象に残っている松岡先生の言葉
「くまのプーさんが純文学だとしたら、
パディントンは上質なエンターテインメント」
この言葉は、私もぼんやり思っていたことを明言化してもらった!!と
ふかーく納得してしまいました。
そして『ゆかいなヘンリーくん』シリーズについて
(ベバリイ・クリアリー/作 松岡享子/訳 学研出版/刊)
ヘンリーくんシリーズは松岡さんがアメリカに留学していた時に、現地でとっても人気があり、実際に読んでみてとても面白かったので自ら訳して学研さんに出版してほしいと持ちかけたものだったそう!
(松岡さんがこれまで自分から持ちかけたのは、これと「ものぐさトミー」だけだそうです!知らなかった!!)
アメリカで子どもたちがみんな喜んで読んでいるのを知っていたので、とても身近に感じて訳すことができたそうです。
また、こちらのシリーズは随分後になってから続編が出版されたりしていて、日本でも何年か前にシリーズ全体が一新されました。装丁やサイズが変わっただけではなく、改訳版となっています。
出版された当時と色々なことの事情が変わったため、
改訳はかなりご苦労されたようです。
私なんかは以前の本で育ったので、そちらのほうが沁みついてしまっていますが、
せっかく新しいシリーズになり、こうして訳も新しくなっているのですから、
いまの子どもたちにもぜひ読んでほしいし、手渡していきたい・・・と思います。
パディントンとヘンリーくん・ラモーナのシリーズに共通する
「ユーモア」について、松岡先生がとても印象的なことをおっしゃっていました。
「日本の児童文学にかけているものはユーモア。
しみじみ、しんみりという要素はあるけれど、ユーモアに長けているものは
なかなかないので、ユーモアの要素を海外の作品からとりいれる」
(※ニュアンスです)
ただただ、おもしろく読める作品、安心して笑って楽しめる作品に欠かせないのは
上質なユーモアですよね。
今回特にお話しいただいた、この2つの作品は上質なユーモアに溢れています。
作品自体の力が強いのはもちろんのことですが、
作品に流れているユーモアをすくいとって日本語にして伝えてくれる
翻訳の力も大きいなと感じます。
ご本人の言葉通り、松岡先生の「この作品が好き」という気持ちが
訳から伝わってくるような気がしますし、
作品ごとにそのお話の雰囲気や空気感が異なっているのは、
その都度それぞれのお話に寄り添っていらっしゃるからでしょうか・・・
講演中、参加者の方との会話に出てきた、どの本の内容にも、
どの登場人物のことも、すぐに答えておられて、
一つ一つの作品を本当に好きでいらっしゃるんだなと感激しました。
この他に、最新の翻訳絵本、
『スリランカの昔話 ふしぎな銀の木』
(ウェッタシンハ/作 福音館書店/刊)のことも
お話していただきました。
ウェッタシンハサントン交流のお話、
松岡さんからの提案が取り入れられ絵本にいかされた
エピソードなどがとても面白かったです。
現在進行形で一緒にお仕事をしている作家と翻訳者とのやりとりのお話を伺えるのも貴重な経験でした。
この日のお土産は、
パディントンが大好きなマーマレードを入れて焼いてもらったマーマレードケーキです。
『くまのパディントン』のお話の中で、パディントンとグル―バーさんの「お十一時」の定番は菓子パンとココアですが・・・
こちらも「お十一時」にもぴったりの可愛いサイズのケーキでした。