2021年9月読書会レポート『with you』

Ⓒwithyou
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9月の1冊は『with you ウィズ・ユー』 

(濱野京子/作 くもん出版)でした。

 

●レポート

毎回、レポーターの方の力の入ったレポートが素晴らしいのが、ちいさいおうちの読書会の自慢ですが、今回もとても丁寧なレポートをSさんが作ってきてくれました。

 

 

 

with you ウィズ・ユー』はヤング・ケアラーをテーマにした物語ということで、ヤング・ケアラーについて調べたことのまとめと丁寧な登場人物紹介のとてもわかりやすい資料をありがとうございました!

●参加者の感想

 

◆テーマの重要性

ヤング・ケアラーを題材にしているため、やはりそのことについての言及が多く聞かれました。

 

・現代社会における問題のひとつであるヤング・ケアラーについて、物語を通して知ることができる入門書となる

・ヤング・ケアラーについて、よく知らなかったので入門編としてよかった

・人権や権利を学ぶきっかけになる

・最近、耳にする機会が増えたヤング・ケアラーという言葉と意味を知るきっかけになる1冊

・さくっと読めるので読書会の本に向いている

…など、Y.A世代から大人まで、ヤング・ケアラーの入門編として読むのにはちょうどいいという意見が多く聞かれました。

内容のわりに読みやすい、中学生にもすすめやすい…という意見も多数。また、恋愛小説としての側面にフォーカスして読んだという方もいらっしゃいました。

 

テーマをどちらかひとつにしなかったことも、この本の特徴かもしれません。

問題提起・問題意識を担保しながらも恋愛小説の側面もあるので、

堅苦しくなく、当事者の年代の子どもにすすめやすいと思います。

 

◆登場人物について

 

・ヤング・ケアラーを扱っているけれど、普通の中学生の悠人を丁寧に描いているのが良い

・主人公が親近感が持てる設定なのがいい(勉強ができすぎないことや、親と不仲なことなど)

・兄弟のやりとりが自然だと思った

 

人物(特に大人)の描き方か少し足りない気がするという意見は複数あり、特に母・陽子が説明をするための人物になっているのが気になるという人が多かったようです。

父については「そんなにかっこいい?」と思った方、

「お父さんが出てきてから物語に入れた」という方がいて、

読む人によって全く違う意見がでてくるところも、

みんなで感想を語り合う面白さだなと思いました。

 

◆ヤング・ケアラーの現状

参加者には子どもに携わる仕事をしている方が多いので、それぞれの立場でのリアルな意見交換ができました。

 

・この物語より、もっと大変な家庭事情の子どもも現実にはいて、それが一見しただけではわからないことがより深刻な問題

・困っていることも日常になると当たり前になってしまうため、どう見つけるのか、どのようにサポートしていくかが問題だと思う

・ヤングケアラーになる子は、まじめで良い子が多い。お手伝いを大変だとは思わないため無自覚のことが多いのでは

・家庭内で孤独になってしまってはいないか。コミュニティがない。

・相談できる場、ソーシャルワーカーの存在などを無自覚な当事者の子どもに知ってもらうには?

・「ヤングケアラー」という言葉が軽い印象になり、実情を表していない気がする

などなど…様々な意見が出ました。

 

まだまだ、理解や認識が十分でないと考えている方がほとんどで、

まずは多くの人が認識することが必要であり、

そのきっかけとしてこの本が読まれるといいなと思いました。

 

その他に出た色々な感想

 

◆恋愛について

・中学生同士の甘酸っぱい恋愛を通して、さらにその深いところで誰かを支える事、その覚悟がかkれているところが良いなと思った

・恋愛の部分が昭和感を感じ、平成の子にわかるかな?と思った

・今の子どもたちにとって「つきあう」ってどういうことなのか戸惑う

などなど。これは当事者の年代の子どもに率直な意見を聴いてみたいところではあります。(思春期だからなかなか本音を聴くのは難しいかもしれませんが…)

 

◆関連する作品について

 

みなさんの感想の中に出てきた作品

『紅のトキの空』ジル・ルイス/作  さくまゆみこ/訳 評論社

『他者の靴を履く』ブレイディみかこ/作 文藝春秋

『となりのトトロ』(アニメーション映画)スタジオ・ジブリ

 

レポーターのSさんのまとめにも書かれてましたが

「ヤング・ケアラーという存在と抱える問題を少しでも多く知ってほしい」という作者の思いが伝わる1冊だと思いました。

 

ブラックボックスしやすい家庭の問題にどのように手を差しのべるのか、周りの大人はどのようにサポートしていくべきなのか…

まだまだ課題が山積みの問題ですが、当事者になりうる年代の子どもたちが孤立しないように、子どもたちも周りの大人もまずは問題を知ることが大切ですし、そのための発信も必要だと痛感しました。