2022年9月読書会レポート『クラバート』

Ⓒクラバート
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9月の読書会は、30年以上前、取り上げたことのあるドイツの作家 プロイスラーの代表作『クラバート』(オフトリート・プロイスラー作 中村浩三訳 偕成社)でした。

今年度の読書会は「以前取り上げたことがあっても、古典も2作品くらいは読みましょう」ということになったため、リクエストがあったこの作品になりました。

新しく、若い図書館員の方が2人も参加され、総勢15人のにぎやかな読書会になりました。

 

プロイスラーは法政大学で行われた児童文学国際シンポジウムのため来日し、基調講演をしています。その際、越高令子が聴講に行ったので、レポーターを担当することにしました。

 

そのシンポジウムのプロイスラーのお話が抜群に面白く、お話の運びも見事で、30年以上たったいまでも、昨日のことのように覚えています。それなので、そのことからお話ししました。

 

「私の家には、とても不思議な本が1冊ありました。毎回、読むたびに話の内容が少しずつ変わっていって、尽きることがないのです。わたしも、弟も毎日飽きることなくお話を

聞き育ちました。種明かしをしましょう!その不思議な本とは、わたしの祖母のことです。」

「彼女は、お話の種には事欠かなかったのですが、同じ話は決してしませんでした・・・」

このように始まり、プロイスラーは自分がいかに伝承文学から影響を受けたかを最初に語りました。

その後『クラバート』を書いているうちに行き詰まり、自分を楽しませるために『大どろぼうホッツエンプロッツ』を書いたと明かしました。これを聞いて、プロイスラーの一番のヒット作がこんな過程を経て生まれたことに、聴衆は驚きの声をあげました。

また、戦争で、兵役中絶体絶命の事態になり、家族も婚約者もプロイスラーはもう生きていないに違いないと思った時、プロイスラーは、全身全霊でテレパシーを婚約者に送り「僕は、生きているよ、僕はいきているよ」と繰り返し、彼女はそれを確実に受け取ったという不思議な体験のことなども話してくれました。

 

ここからは参加者の感想の一部です。

〇YAリストを図書館で作ったとき、恋愛というテーマにえらばれたので、なぜかなと思ったが、最後まで読むとこのテーマとしても読めるかなと思った。

魔術がでてくるのにその説明がないが、昔話の中では魔術師修行は定番なので、その必要がないのだなと思った。

スパッと終るところが、昔話の終わり方に似ている。オデッセイアの叙事詩とも雰囲気が似ている。

 

〇自分は、外国文学が好きなので、この本は楽しく読めた。四季折々の自然描写が美しい。この挿絵も好き。ストーリーが、なぜなぜの連続で読み進めやすい。この物語は、全体にカタカタ動くような印象を持つ。ドイツのベルリンの壁が崩壊した時、ドレスデンの宮殿を見に行ったことがあるのを思い出した。いっしょに行った友人が、「ここは、魔女裁判がおこなわれた所だよ」といい、急に不気味さを肌で感じ、ヨーロッパは、物語と風土が結びついているんだなと実感した。

 

〇20数年前、学校図書館に勤めるとき、ある人から、『クラバート』くらい読んでおけと言われたが、その時は、この本の情景がなかなかイメージできなかった。今回は、夢と現実を分けて読めた。

日本の作家の斎藤洋さんが、『大どろぼうホッツエンプロッツ』をまねて、自分は作品を書いたと講演会の中でおっしゃっていた。

 

〇学校図書館では、男の子によくすすめて人気があった。このごろ、今生きている自分がヒントになる言葉をさがして、本を読むようになった。そういう意味でいっぱい言葉をもらった。

昔話プラス人生訓が書かれている物語だと思った。親方の不気味さが、いつまでも印象に残った。

 

〇父親の本棚にずうっとあった本。とても時間がかかって読んだ。高校生の時のアルバイトの体験が、よみがえるからだと思う。社会に出て初めての体験だったので、上司の人からいつも怒られていたのが、この本の親方と重なる。アルバイトをしばらくして、はっと気が付いたら、今日は上司怒られなかったという日があった。そこで、はじめて遠くを見ることができそこがクラバートにかさなった。社会人の今は、自然描写の美しさに惹かれる。親方にずっと見られていることを、クラバートは自覚できているが、支えてくれる仲間がいてよかった。

お祭りの日は、思いっきり自分をだしてもいい!という所も納得できる。

 

〇とても好きな本。20年以上前からドイツ文学やケルトの文学には、魅かれて読んでいる。前半のあらがえない運命に翻弄される主人公を覆う暗さも、よく書けているなあと思う。終わり方があっさりしているところも好き。ドレスデンに親方と行く場面が印象的。

 

〇以前に買ってどうしても、最後まで読めなかったのに、今回は読み通すことが出来た。

周りの景色のどんよりした暗さは、その土地の暗さに関係するのではと思い調べてみた。やはり、ドレスデンと松本を比較してみてもドレスデンのほうがかなり、温度が低いし晴れている日が本当に少ない、という事がわかった。6・7・8月しかはれていなくて、あとはどんよりとした日が続く。登場人物は、親方も含めてみな不安を抱えている。それが本の暗さに通じるのだと思うし、読み手も不安になるのだと思う。

 

〇今回は、読了できなかったが、是非読み切りたい。

 

〇表紙の絵がこわい、ずっと見られている気がする。読み終えて、とても重い物語なのに、村の女の子の愛情が、クラバートを救う所がとてもほっとした。読み終えて、よかったと感じれる物語だった。

 

〇表紙がジブリっぽい。宮崎駿さんの『千と千尋~』に影響を与えたというが、わたしはむしろ『ハウル~』の方に似ているなと感じた。読み始めは、暗くて読めないかもしれないと思うくらい色がない世界という感じがした。

 

〇「クラバート」という言葉の響きが、特に印象に残る。以前、魔法使いになりたいと思い、修行をしたいと思った。朝から今日一日をふりかえるのではなく、今から遡って今日を振り返ると、自分の行動をコントロ-ルできるという文章に出会い、実行したこともある。(もちろん続かなかったが・・・)大王にある、水車小屋などをイメージして厳しい修業時代とは、どんなものだろうと想像した。

プロイスラーの他の本のあとがきに、「うまい作家ではなく、よい作家である。」と翻訳者の大塚勇三さんが、プロイスラーを評している。本当にそうだなぁと思う。

 

〇高校生の時は、水車小屋のところで止まってしまった。ドイツの作品は、暗いものが多く、ドイツの民族性を理解しないと読めないのかもと思った。今回は、ユーロがでてきたあたりから、一挙に読めた。

 

〇情景を思い浮かべながら読んだが、なかなか読みすすむことができないのは、魔法などの説明がないところが大きいのかなと思った。

 

最後に、レポーターからレポートでは触れられませんでしたが、プロイスラーが学校の先生をしていたことは、彼の創作によい刺激を与えたというお話をしました。

 

プロイスラーが先生をしていた頃のこんなエピソードがあります。クラスでいたずらをした子がいて、「これは誰がやったんだ?」とプロイスラーが聞くと、実在しないAという子がやったと誰かがいい、プロイスラーは、実際その子がいるように振る舞って、説教をした。子どもたちも、口々に「Aそんなことをやっちゃダメじゃないか」と言い出した。この事件がきっかけになって、この学校には、Aがやってきた。そのあとも、ずっといっしょに学校生活を送り、例えば、「先生、Aが、今のところわからないといってるよ」というと、プロイスラーは「そうか」といって丁寧にわからないところを説明したそうです。

目に見えないものといっしょに過ごす体験ができた子どもたちは、なんと幸せなんでしょう!

また、ドイツと日本はともに、第二次世界大戦の敗戦国です。児童文学の作品にも、当然その影を落としていると思います。プロイスラーは、文学界から、「脳天気な作品ばかり書く作家」とたたかれたが、これに反論し、「子どもにユーモアの世界を伝え続けることこそ、大人の大切な役割だ」と述べています。これに象徴されるように、彼の作品は、まじめだがユーモアがあります。昔話を基盤に自由に想像の世界を羽ばたかせ、子どもたちに語り続ける作風は、とても貴重だと思います。

今回読み返して、さらにプロイスラーの作品が好きになりました。