グリーン・ノウ物語シリーズ☆お気に入りの読みものをご紹介

Ⓒグリーン・ノウの子どもたち 旧版
Ⓒグリーン・ノウの子どもたち 旧版

グリーン・ノウの物語はイギリスのマナー・ハウスという古い古いお屋敷を舞台にしたお話です。

 

私が最初に『グリーン・ノウの子どもたち』(評論社)に出会ったときは正直、このお話の良さがよくわかりませんでした。ちょっと地味な表紙と中の真っ黒なイラストもなんだか怖かったのと、ひっそりとしたお屋敷の雰囲気や土地の呪いなどがなんとなく不気味だったのと…あまりに密やかなクローズした雰囲気にやや怖気づいてしまい、夢中になることができませんでした。全体に流れるあまりに大きな時間の交錯についていくことができなかったのです。1冊目を読んでから、次のお話を読む気になれず、しばらくこのお話のことは忘れていました。

 

2回目にこのお話を読んでみようと思ったのは、その後少したってから。『トムは真夜中の庭で』や『時の旅人』といった所謂タイムファンタジーの作品を読んでからです。2作品ともに古いお屋敷が舞台になったイギリスの児童文学らしい名作で、すっかり夢中になって読み、その際に(そういえばマナー・ハウスが出てくるお話が他にもあったなぁ)と思い出して、もう一度『グリーン・ノウの子どもたち』を読んでみることにしました。

…すると、今度はこのお屋敷に起こる不思議なことを受け入れることができるようになり、そこに住む人たち(オールド・ノウ夫人やトーリーやずっと前から住んでいた子どもたち…)に親しみを感じられるようになっていました。お屋敷の細部の描写を読んで想像してわくわくしたり、トーリーと一緒にトービーやリネットたちがいつ姿を見せてくれるのかどきどきしたり…

初めて読んだときのあの怖さはどこにいったのかしら??と思うほど、グリーン・ノウの世界が心地よく感じられ、今度こそ「楽しんでいいよ」とお話に受け入れてもらえて…ようやく、この物語への通行手形を手にしたように感じました。最初の出会いでつまづいた経験がかえってこのお話を楽しめる喜びに繋がったみたいです。

 

また、私自身がとてもおばあちゃんっこだったので、おばあさん(おじいさん)が魅力的に描かれている作品とはそれだけで一気に親密になれることが多いのです。その点でいうと、この作品のオールド・ノウ夫人はすばらしい!

子どもにとって時に他の誰よりも近いところにいる大人。その一方で長く生きている分、圧倒的に不可解な部分がある大人でもある老人=オールド・ノウ夫人。彼女は屋敷の過去と現在を繋ぎ、子どもたちと屋敷を繋いでいる大きな存在で…後々、このシリーズの作者であるルーシー・ボストンはオールド・ノウ夫人にそっくりだった…ということを読んで「なるほど!」と深く納得しました。

 

そんなわけで、ようやくグリーン・ノウを楽しむ権利を得たと思いきや…このシリーズの制覇はなかなか手ごわかったです(笑)

『グリーン・ノウの子どもたち』から2作目の『グリーン・ノウの煙突』はさらに登場人物も増え、お宝探し的なわくわくもあり…1作目を楽しめたならすんなり入れるお話(少なくとも私はそうでした)

3作目は『グリーン・ノウの川』

こちらは突然、登場人物ががらりと変わり、オールド・ノウ夫人さえ出てこないので、初めて読んだときは軽くパニック。…もしかして、オールド・ノウ夫人、死んじゃったの…??とこわごわ読みました。実際はそんなことはなかったのですが、特に説明がないので戸惑います。※次作『グリーン・ノウのお客さま』にも出てくる少年ピンはこのお話からの登場なので、いったんシリーズを読み終えてから再度読むと、この順番に納得ができます。

 

続く『グリーン・ノウのお客さま』にも最初はてこずりました。なぜなら冒頭からしばらく、ゴリラの一家のお話が続くのです。突然、登場人物が変わってしまった『グリーン・ノウの川』に続き、今度はゴリラ?!ここで2度目の挫折をしそうになりましたが、我慢して(笑)読み続けていると前作に出てきたピンが登場して…そこから物語は一気にドラマチックになっていきます。お話が進むにつれ胸がつまりそうで悲しくて。シリーズの中でも特に印象的な1冊ですが、悲しくなるのであまり頻繁には読み返せません。

『グリーン・ノウの魔女』はようやくグリーン・ノウにトーリー、ピン、オールド・ノウ夫人が揃います。グリーン・ノウという特別に表れた侵入者との対峙が描かれます。

『グリーン・ノウの石』は最終巻というより番外編でエピソード0のような位置付の1冊。この最終巻までを読んで、もう一度1巻目から読み返すとようやくこの物語の全貌がつかめます。

全巻読むと、最初こそ違和感のあったシリーズのならびにも納得しました。

 

このお話に限らず最初の出会いがいまひとつでも時期を変えてチャレンジしてみたら、嬉しい再会に転じることもあります(私が身をもって実証済です)なので、もしちょっと読んでみたけどしっくりこなかったという方…諦めないで時期を変えてまた読んでみてください。いったんうまくチャンネルが合えば読めば読むほど味わい深いシリーズなので…

今は新版になり、より手に取りやすくなっています。

 

トービーのねずみ
トービーのねずみ

シリーズを通してしみじみ思うのは、このお話の真の主人公はお屋敷なんだなぁということ。お屋敷…庭も含めたグリーン・ノウという場所は時の行き交う不思議な空間であり、その存在がこの物語そのもののような…。

 

そして、その思いは、家族でイギリス旅行に行き実際にグリーン・ノウの舞台を訪れた時により強くなりました。お屋敷に入ったとき(この場所に物語がある)とはっきり感じてゾクゾクしました。

本で読んだままのお屋敷が存在して、自分がその場にいるという事に、今まで感じたことのない興奮をおぼえ…お屋敷の中にいる間中ずっと夢と現を漂っていたような…ふわふわとした何とも言えない感覚でした。物語が今も確かにここに存在していると感じ、その一部に自分が足を踏み入れてしまったような……今でも忘れがたい経験です。