『お父さんのラッパばなし』

朝日小学生新聞・朝小ライブラリー『名作これ読んだ?』のコーナーでご紹介した本について、書ききれなかったことをお伝えしたい!と思って、自ら始めたコーナーでしたが、2回ほどさぼってしまいました……反省。新聞の掲載時期とはずれてしまいますが、備忘録として再開したいと思います。

11月17日の朝日小学生新聞・朝小ライブラリー『名作これ読んだ?』で『お父さんのラッパばなし』(瀬田 貞二/作  堀内 誠一 /画 福音館書店)を紹介しました。

 

新聞のスペースでは書ききれなかったあれこれを書き留めておきます。

晩ごはんのあと、子どもたちにせがまれてお父さんが話す、自分が若かったころに体験したという冒険話の数々。その冒険の舞台は、日本だけにはとどまらず、アメリカ、アルゼンチン、インド……と世界各地に広がっています。富士山で歌声を響かせて鳥を呼び寄せたと思えば、ニューヨークではビルのガラスふき世界一になり、イギリスではサーカス団の一員となり華麗な曲芸を披露、バグダッドでは大泥棒を捕まえる……と、とにかく大活躍の連続です。あまりにもスケールが大きくて、とんでもないほらばなしばかりで、いちいちつっこむのがばかばかしくなってしまいます。

 

SNSが活発になり、個人個人が自分の意見や情報を発信できるようになりました。気軽に発信できるからこその楽しさもありますが、その信憑性や真偽を見極めるのが大変な時代になったなぁとも感じます。悪意のないちょっとした嘘なのか、人を騙すための嘘なのかによってもジャッジは変わると思いますが、私が子どもの頃よりも、大人もこどももいろいろと敏感になっているような気がします。

 

人を貶めたり傷つける嘘がよくないというのは大前提として、「ラッパばなし」や「ほらばなし」ならどうでしょうか? 

「ほらをふく」というと、大げさででたらめなことを話すという、あまりよくない印象を持つ人もいるかもしれませんが、限度を超えたほらばなしは聴いている人を愉快にさせてくれるような気がします。

この本に出てくる「ラッパばなし」がまさにそうで、お父さんが子どもたちに語って聞かせる、ラッパの音色のように朗らかで高らかなほらばなしは、世界を股にかけた馬鹿馬鹿しいくらいのスケールが大きさ。最初は「え~、うそだよ~」「うそつきだ~」なんて言う子どももいるかもしれませんが、ここまで突き抜けてくれたら、笑うしかない!となるのではないでしょうか。こんなに荒唐無稽だと、本当か嘘かということにこだわるよりも、笑い飛ばしたほうが楽しい!と思うはず。

 

この本のもうひとつのおすすめポイントは、なんといっても堀内誠一さんのイラスト。

カラフルで楽しくて、どこか抜け感のある洒脱さが絶妙で、このイラストがあるとないとでは印象が全く変わってくると思います。

 

 

※写真は私が読みこんでボロボロになってしまったハードカバー版(現在は版元品切れ)と新しい文庫版。ハードカバーと文庫だと、どうしてもハードカバーをひいきしてしまいますが、この文庫版はハードカバーに入っているカラーイラストがそのまま収録されているのが素晴らしい!お話もイラストも、からっとした朗らかさに包まれていることが、この本の大きな魅力になっていると思っているので、その点でもこちらの文庫版はおすすめです!

 

子どもも大人も楽しめると思いますが、特に子どもたちには、おおらかな気持ちで「デタラメ」を楽しんでほしいな~と思います。