虹のブランコ#6

自閉症の親子と

ある日、特別支援学校の先生をしている友人からメールが入りました。「『ぴっつんつん』という絵本で、児童の1人と楽しく遊んでいます」と書かれていました。早速、わたしは本を取り出し、声に出して読みました。すると不思議なことに、自然に言葉がリズムにのってぴょんぴょんはねだしました。

「ちゃぷちゃぷ ぱちゃぱちゃ ぴっつんつん」「べちゃべちゃ びちゃびちゃ ぐちゃんぐちゃん」

これは、愉快!

「どういうふうにお子さんが反応したか、ぜひ教えて」とわたしは尋ねました。その日学校では、自閉的な傾向がある女の子が、友人の持っていたこの絵本に強く興味を示したそうです。「いっしょに あそぼ」と誘う言葉がお気に入りだったとか。

その次に興味をもったのが擬音の楽しさではなく、傘を持った子どもを描いた31の色。絵本に挟んであったリーフレットには、絵を担当したもろかおりさんの短い文章が載り、すべての色の名前が書かれていました。「サンフラワー、ダンデライオン、ターコイズ、アメジスト、カーマイン・・・」耳慣れない色の名前を先生が読み上げると、その女の子はとても興味を持ち、31色すべてを覚えてしまったそうです。

先生が、的確にその子の興味を引き出した見事な例ですね。このあと、色鉛筆を使った色遊びに発展し、2人はこの絵本を、10日間も読み続けたのだそうです。

 

わたしたち「本と発達を考える会」のメンバーは、自閉症の親子のおはなし会について、社会福祉協議会の方からご依頼を受けた時、2人の掛け合いでこの絵本を読もうと計画しました。

人との関わりが難しい自閉症児の集団での読み聞かせがスムーズにいくのか、わたしたちは不安でした。そこで、障害のあるお子さんを育てたメンバーに助言を受け、こんなふうにしてみました。会が始まる前、親御さんたちに、「多少騒いでも、こちらは全然気にしないので、子どもさんをしからないでくださいね」とお伝えしたのです。ちょっとドキドキのおはなしの会が始まりました。

「あめが つんつん ぴっつんつん」とわたし。「つんつん ぴっつん ぴっつんつん」と相方。だんだん擬音がにぎやかになっていきます。「たんたん たたん たん たたん」「ごぼごぼ ざばざば ばしゃんばしゃん」

2人で声を合わせ、雨の歌を歌います。子どもたちだけでなく、お母さんたちも、リズムを取って楽しそう。なんとか最後までたどりつき、笑顔で絵本を読み終わることができました。もちろん、あっという間に、どこかに行ってしまったお子さんもいたのですが・・・。

後で主催者にお聞きして分かったのですが、親御さんたちは、親子いっしょでお話を聞くことに不安があったそうです。今まで集団の中で、絵本を最後まで楽しめないことが多かったからでした。わたしたちの伝えたはじめの一言で親御さんも安心し、いっしょに絵本を楽しめたと聞いて、ほっとしました。

子どもたちの特性をよく見極め、楽しんでもらう努力をわたしたち読み手は怠ってはいけない、と身が引き締まる思いでした。

 

©ぴっつんつん
©ぴっつんつん

「ぴっつんつん」

もろ かおり絵 武鹿 悦子・文 後路好章・構成 

くもん出版 1.200円+税

 

 編集者の後路好章さんがぶらりと入った画廊でふと目にした、黄色いレインコートと傘をさした女の子の絵。もろかおりさんの描いたこの絵を見たことが、物語の始まりでした。言葉を付けてほしいと依頼を受けた詩人の武鹿悦子さんは、たくさんの絵コンテを見た途端、体の中で音が跳ねたといいます。擬音語だけで構成された雨の絵本の出来上がりです!

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コメント: 1
  • #1

    戸塚洋子 (月曜日, 21 7月 2014 10:13)

    玲子さん、久しぶりにぴっつんつんの本のお話を聞きました。31色の色を覚えるの
    私にはできそうにありませんが、楽しいお話ですよね。子どもたちにも読んであげたくなっちゃいました。
    いせさん、行かせていただきます。楽しみです。