虹のブランコ#7

図書館遠足

ある時、特別支援学校の中等部の生徒と先生たちが

「図書館遠足」に出かけるというので、私も見学させてもらうことにしました。

 

その日、生徒たちは、初めての体験を三つしました。

まずは、図書館の蔵書がどんな分類になっているのかを

図書館の職員から聞きました。

次に、全員が利用者カードを作ってもらいました。

そして、おはなし会です。

図書館の職員とボランティアが、生徒たちのためだけに開いてくれた会です。

この日に備え、係の先生とボランティアのメンバーは丁寧に打ち合わせをしました。

中学生なので、幼稚な内容は避けること。

反対に、お話に退屈して集中力が切れることのないよう、

読み手と聞き手とが掛け合いする場面をつくることにしました。

 

プログラムのクライマックスは、絵本「ドオン!」の読み聞かせです。

読み手は2人。

1人はオニの子になり、もう1人が人間の男の子になって

読み分けながら進みます。

「オニのこドンはいたずらもの。ともだちのつのはきるし、パンツはやぶくし」

「『でていけ!』とうとう うちからおいだされました」

「にんげんのこ こうちゃんも『でていけ!』と うちからおいだされました」

と読んだ、その時でした。

 

突然、わたしの前に座っていた男の子が靴をつかみ、

部屋からすごい勢いで飛び出しました。

横にいた男の先生も機敏な動作で追いかけ、

「大丈夫、おまえさんに言ったんじゃないよ」となだめ、連れて帰ってきました。

「でていけ!」とは、自分に言われたのだと勘違いしたようです。

 

あっという間の出来事に、読み手は、2人ともびっくりして、ちょっと固まってしまいました。でも、その他の生徒は、気にすることなく集中していたので、お話を中断することなく、そのまま続けることができました。

 

思わぬハプニングで、いったん中断されましたが、

その日のおはなし会の盛り上がりは最高でした。

みんなで太鼓をたたく場面では、生徒も先生も体を揺すり、ノリにノッていました。

 

後日、企画した先生から、こんな話を聞きました。

「あの時、飛び出していった男の子が『でていけ』という言葉に反応したのは、

ちゃんと話を聞いていたってことだね」。

先生たちはこう喜んで、感心したというのです。

いつもだったら、そんなことがあると他の生徒も動揺するのに、

とても集中して最後までお話を楽しめたのもうれしい誤算だったようです。

 

さらにうれしいことがありました。生徒の家族から、こんな報告があったそうです。

「図書館はとてもいいところだからみんなで行こう」

と休みの日に一家で図書館に行き、家族で登録カードを作って本を借りました。

子どもから思いがけない提案をされ、うれしくなりました、

と連絡帳に書いてあったそうです。

 

生徒に新しい体験をさせたいと願った学校の先生、

その気持ちに応えた図書館員とボランティア。三者の思いが相乗効果を生み、

すてきな「図書館遠足」になりました。

 

支援を必要とする子どもたちにとって、

さまざまな立場の大人と接する機会はとても貴重なもの。

こうした経験を通して、子どもたちは、社会との関わり方を学べるのだと思います。

 

©ドオン!
©ドオン!

「ドオン!」

山下洋輔/文 長新太/絵 福音館書店 1,100円+税

 

 

日本を代表するジャズ・ピアニストと、和太鼓集団・「佐渡国・鼓童」の人々との交流から生まれたこの絵本。2人の分担をしっかり決めてよく練習して読めば、ちょっとしたライブ感が楽しめます。

親子でもどうぞ。